逍遥録 -衒学城奇譚- -33ページ目
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ローザ・ガイ著「男友だち」

差別社会アメリカの黒人社会が舞台。
主人公のイーディスは17歳、4人の孤児の長女。
妹たちの面倒をみることが自分の責任と考え、
自分で気がつかないまま、そのことに倦んでいました。
登場する孤児たちは、
皆どこか諦観しきって、老成して、それでいて身勝手です。
里親と施設をたらいまわしにされるうちに、
その境遇から脱け出す者もいます、いなくなる者もいます。
その子らを見送りつつ、イーディスからは、
さまざまなものが引き剥がされて、剥き出しとなっていき・・・

イーディスの焦りというか、追いつめられた感情が、
書き手であるはずの、大人の視点を感じさせず、
無知で、未熟な荒々しさが伝わってきます。

しかし、内容とは別のところで、一言云いたい。
作者のローザ・ガイは、珍しいトリニダート出身の女性作家。
表紙裏の解説を読んで、購入したのですが、物語の舞台はアメリカです。
何で自分の国のことを書かんのじゃ?
と思い、最後の作者紹介を見てみると、
育ったのは、ニューヨークのハーレムということなので、
おそらく幼児期に、移民したのではないかと思います。

別にそれはいい。
ただしこの物語は、あくまでアメリカ人のアイデンティティを持った、
アメリカ人の視点でつづられる、アメリカの黒人社会の物語であり、
ことさらトリニダート人がつづった物語、というものではないのです。
そこにはみじんもトリニダートの匂いはありません。
おそらくガイ自身も、自分のことをアメリカ人と思っているのでしょう。

数多く生み出される、黒人社会を舞台にした物語で、
他書との差別化をはかるために、
宣伝効果として、彼女をトリニダート生まれと強調したいのでしょうが、
いささかあざとい。
実際、ボクもトリニダートが舞台とは珍しいと思い、
中身をよく見ずに購入したのですから。
何となく、肩透かしを喰らった感じです。

内容は悪くないが、手放しで賞賛するほどではないです。
ただし、こんな作品がもっと商業ベースにのればいいのにと、思います。

評価:★★☆☆☆

初めてなのでカッコつけずに

【ピーター・ラヴゼイ著「降霊会の怪事件」】

・・・っと云いつつ、ラヴゼイをしょっぱなに持ってくるあたり、
硬派なんだか、媚びてるんだか、よくわからないですね。

さて、この人ほどボクの中で、当たり外れの大きい人は、そういません。
生産量はたいしたモノなんだろうけど。

一作ごとにスタイルが異なるのは、
自分が確立したスタイルに囚われることなく、
新境地を開拓していくっていう、気概と受け止めることもできるんですが、
器用貧乏とでもいうのかな?
傾向が一致しないため、どうしても“眼”が散るんですよね。

さて、本作ですが、ちょいときつかですばい。
印象が残りません。

19世紀末ロンドン。
降霊会の最中に、霊媒師が感電死します。
同席した人は皆、上流階級の者ばかり。
スコットランドヤードのクリッブ部長刑事は、
部下とともに犯人を追いつめるが・・・

と書いてみたけど、全然おもしろくない。

少し強引なくらいのラストシーンへの展開が持ち味のラヴゼイにしては、
以外にあっさり薄味で、それが逆に新鮮だったりしますね。

評価:★★☆☆☆

こんなもんですばい。
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