ジェラルド・カーシュ著 『犯罪王カームジン』
>そびえるような胸と測定不能の太鼓腹。
>ごついいがぐり頭、でかい赤ら顔。
>白い眉毛はぼさぼさで、どんよりとした黄ばんだ眼は小ぶりなプラムほどもある。
>鼻の下には煙草の煙で薄茶色に焼けたニーチェ風の大仰な髭が冬ごもりのリスそっくりにうずくまって口まで覆い、呼吸のたびにいきているみたいにもぞもぞ動く。
本文中でこのように風貌を評されたカームジンなる人物。
本人は偉大な犯罪王と称しているが、彼が語る犯罪譚はあまりに荒唐無稽で、もしも真実ならまさしく犯罪王だが、嘘っぱちならば史上まれにみる大ぼら吹きだ。
* * *
作者のカーシュ(?)が、カームジンのかつての犯罪譚を聞きとるのだけど、半信半疑、ホントかどうかまるで信用できない内容ばかり。
詐欺にペテン、銀行強盗からゆすり、たかり。
同業者からちょろまかしたかと思えば、昔馴染みのためにちょっとしたペテンをしかけたりもする。
あげくのはてには、英国王室の王冠もいただいてしまう。
尾羽打ち枯らしたような姿からは、想像もつかない大活躍だ。
そんだけすごい犯罪者だったんなら、カフェで砂糖をこっそり持って帰るなんてセコイまねしなくてもよさそうなものなのに、とかはツッコまない。
問答無用のおもしろさである。
もちろん荒唐無稽で、あきらかにムチャだろうってハナシもあるけれど、ホントにおもしろい小説ってな、そんなコトを感じさせない勢いがある。
それは何より、カームジンという人物の魅力にある。
流儀は徒党を組むでもなく暴力を使うでもなく、常にアタマで勝負。
犯罪者だが、馴染みの相手のために働いてやるなど、美学にもこだわる。
犯罪王などと威張っているが、他人からホラ吹きだと云われたら、ムキになってしまう。
ガキなんだよね。
そんなガキが、いかんなく才能を発揮したのが、犯罪って分野なワケよ。
ひょっとしたら妄想?
そう思わせるほどに。
うん、まさしくウソかホントか、信じるも信じないも読む者次第。
だから副題も「あるいは世界一の大ぼら吹き」。
* * *
評価:★★★★★
文句ナシの5つ星。
ウッドハウスなんかもそうだけど、英国ってな、時々こーゆー怪物じみた、とてつもなくおもしろい小説を書く作家が出現する。