島崎藤村著 『破戒』
明治後期、部落出身の瀬川丑松は、身分をいつわって教員をしていた。
父の厳しい教えを護り、彼を白眼視する校長たちの疑いの眼をかわしつつ、決して身分を明かそうとはしませんでしたが、ココロの中では常に激しい葛藤がありました。
しかしある日、解放運動家猪子蓮太郎の死に衝撃を受け、ついに父の戒めを破ってしまいます。
* * *
ボクは仕事柄、こういった問題について耳にするコトが、わりかし多いほうじゃないかなと思う。
もちろん現代のソレだから、相当に希釈されて現在のボクらには良識と世間体のフィルタがかけられてるから、おそらくボクらが今カンジてるモノと、かなりの隔たりがあるのでしょう。
だから同質として語るコトはね、きっとできない。
しかしこういった問題で、やはり何が怖い、あるいは残酷かってぇと、ボクは善意やらよいヒトであろうって気持ちのような気がする。
物語中、友人が丑松が部落出身ってウワサを聞いても笑い飛ばすワケ。
でもソレはくだらん差別だってワケじゃありません。
「彼がそんな身分のワケないじゃないか」ってコトで。「あいつらは見たらイッパツでわかるだろ、瀬川はそんな風に見えないじゃないか……」
もちろん彼は丑松にそんなウワサがあったから、彼を擁護するために云ったものですが、もうすでにソコにはぬぐいがたい意識があって、自分のその概念にあてはまらないから、丑松は“シロ”だって云っただけなんですよね。
ホントにヒトのココロを傷つけるのは、こういた善意に隠れたよどみなんじゃないかと思うのです。
現代だってそう。
親がコドモのコトを想って、身元調査したり結婚に反対する。
「自分は差別はよくないって思うが……」を枕詞に、善人のふり、良識人の顔をして他人を平然と踏みにじる。
剥きだしの悪意の方が、まだつまみどころがあって、得体がしれている。
* * *
評価:★★★★☆
部落差別を題材にとった小説の白眉です。
最初に読んだのは中学のころだったか……
そのころはよく意味がわかんなかったが、再読してみるとはっきりとカンジるコトができました。
しかし最期のツメでやはり突き放しきれずに、甘さがのこるカンジ。
う~ん……そんな風に偉そうに評価する類のハナシじゃないんだけどねぇ……